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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和54年(う)16号 判決 1979年5月29日

本店所在地

鹿児島県川内市宮崎町字沖玉一、七六九番地

株式会社 園田組

右代表者代表取締役

園田菊夫

本籍

鹿児島県川内市神田町二三番地

住居

同県同市神田町二番二八号

会社役員

園田菊夫

昭和六年九月一五日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、昭和五三年一二月二七日鹿児島地方裁判所が言い渡した判決に対し、株式会社園田組及び被告人からそれぞれ適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は検察官伊津野政弘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人土屋香鹿が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。

所論は原判決の量刑が重きに失するというのである。

よつて本件記録を調査して考察するに証拠によつて認められる本件犯行の態様、回数特にほ脱税額は原判示第一の年度において二、一六六万八、六〇〇円、同第二の年度において四〇三万六、〇〇〇円、合計二、五七〇万四、六〇〇円の多額に達していること、脱税の方法は不正の方法で所得を秘匿し、領収書を偽造し、会計諸帳簿を改ざんする方法を自らが経理担当職員に命じて行わしめたというものであること、その動機も自己の取引先相手の個人債務の保証をなし、手形の裏書をなしたことがあつて同人がたまたま倒産し、行方をくらませたことから同人の右債務を負担せざるを得なくなり、又知人から病院建築用地買収の周旋方を頼まれて同土地の売買契約まで締結したところ、依頼者本人が他に用地を求めたため被告人が急遽右土地を買収せざるを得なくなり、これらの資金繰りに窮した挙句本件犯行を計画したというもので、右いずれも自己の業務の拡大を図る意図での犯行であり、同情に値するものではないこと、その他被告人の年令、身分、脱税事犯は納税義務を無視した市民倫理違反であること、同種事犯に対する科刑の現状等あれこれ勘案すれば原判決の量刑はまことに相当であつて所論のうち肯認できる諸事情を被告人の利益に斟酌しても、被告人に対し罰金刑を選択すべき事案とは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により、本件各控訴を棄却することとし、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 杉島廣利 裁判官 富永元順 裁判官 松信尚章)

○昭和五四年(う)第一六号

控訴趣意書

被告人 株式会社 園田組

右代表者代表取締役

園田菊夫

被告人 園田菊夫

右の者らに対する法人税法違反被告事件について弁護人は次のとおり控訴趣意書を提出する。

昭和五四年二月二八日

右被告人弁護人

弁護士 土屋香鹿

福岡高等裁判所 宮崎支部 御中

控訴の趣旨

原判決は量刑又は刑の選択が不当と思料されるのでこれを破棄し、被告人株式会社園田組に対する罰金刑を軽減し、被告人園田菊夫に対しては罰金刑を言渡すよう求める。

控訴の理由

一、(脱税の態様)

(一) 本件法人所得過少申告事件は被告法人の決算書を作成するに当り工事台帳について未成工事支出金を減額する一方完成工事原価を増額する操作を行い、工事台帳を改ざんし、この改ざんされた工事台帳に基いて未成工事支出金明細書及び完成工事原価明細表を作成し以て所得金額を減少して申告したものである。

しかし、これに関して工事台帳を除く他の諸帳簿は一切改ざんしていないのである。被告法人の経理担当者松下和吉は「この仕入帳や元帳、伝票はいじつておりませんのでそれらの記帳は正しい記帳であります。それはそれらまで改ざんする事は恐ろしくて私に出来なかつたのです。」と供述している(昭和五二年一二月二一日検察官作成供述書一一枚目裏)。従つて仕入帳或は総勘定元帳と工事台帳とを照合すれば所得過少申告の事実は容易に発覚するのである。

始めから二重帳簿を作り、諸帳簿に虚偽の記載をし、容易に発覚しないような巧妙且つ計画的な手口に比較すれば極めて初歩的であり、悪質な手口ではない。

(二) 昭和五二年二月頃熊本国税局員が後述する森重寿の酒販売に関する違反事件の調査のため被告法人事務所に来て一寸被告法人の帳簿を見て、「未払金にずれがある。川内の税務署長さんに相談して見なさい」と言われたので被告人はその翌日川内税務署長を訪ねて「実はこういう事情で未計上が六、〇〇〇万円位あるのですが早急に処理して下さい」と依頼し被告人はその後四回も税務署長と会つて速かに修正申告をして問題を穏便に片付けようとしたのであるが署長が被告人に対して「あなたも一ぺんに支払うという事は経済界不況の時困るのではないか」と言つてくれたので被告人もこれに甘えて四回に分けて三ケ月毎に支払うようにして頂けないでしようか」等と交渉を重ねているうちに同年五月に熊本国税局による踏み込み捜査がなされたものである。

(三) 仮空の領収書や借入証書を作成したのは税務署長から「領収書はないか、領収書でもあれば何とかなるんだがなあ」とか「あんたのところは金を借りて忘れているところはないか」と云われたので、被告人も実はなかつたのですと云われなくなつて仮空の領収書や借入金証書まで作つてしまつたものであつて、決算書作成のときから計画的に仮空の領収書や借用証書を作成したものではないのである(第五回公判廷における被告人供述調書一四以下)。

(四) 第五回公判廷において検察官はその意見二において「本件犯行の態様はいわゆるつまみ申告であり、未成工事支出金を減額し完成工事原価を水増計上して過少申告した事実が法人税法違反に該当するものとして検挙されたもので、被告人自身そのうち二五〇万円を役員賞与として取り込んでいることは非難されなければならない。」と述べているが、右に述べた所得の内から被告人が二五〇万円を役員賞与として取り込んだものではない。

被告会社は昭和四九年一一月地金商山内範雄と貸ビル建築工事請負契約を結んだ。その請負金額は実際は二、四二〇万円であつたが契約書面では二、一〇〇万円とした、その理由は山内範雄の妻昌子が夫に対して二、四二〇万円で契約すると云えば夫が高いといつて契約をしぶると思い、契約書面は二、一〇〇万円としその差額を妻昌子のヘソクリで夫に内密に支払うこととしたものである。そして山内昌子は被告人に対し「この差額を私が私のヘソクリで支払つたことは私とあなた以外の人には内密にしてくれ」と云つて、仮空名義の宮崎銀行川内支店の百万円の定期預金証書及び残額一五〇万円を現金で支払つたのである。従つて被告人はこの二五〇万円を会社の帳簿に記入し、万一税務調査で明らかになつた場合は山内夫妻の間に紛議が起きるばかりでなく場合によつては山内商店の脱税問題に発展するおそれもあることであり、山内昌子に対する信義上会社に入金しなかつたのであつて脱税が目的でやつたことではない。従つて法人税法違反事件として悪質な脱税行為として非難されるべきではないのである(山内昌子作成の上申書昭和五二年五月一七日作成)、(昭和五二年一二月二六日作成山内昌子供述調書)、(昭和五二年五月一七日付山内昌子上申書)、(昭和五二年五月二七日作成園田菊夫質問てん末書九枚目以下)、(昭和五二年一二月二三日作成園田菊夫供述調書三)。

(五) 以上述べた如く被告人は年度当初から巧妙な方法で計画的に脱税を企図したものではなく、後述するような動機に基いてその年度の所得を後年度に追いやつたのであつて悪質陰険な計画的脱税ではないのである。

二、(脱税の動機)

(一) 被告法人は昭和四五年の秋、川内市平伍町の酒小売商森重寿(以下森と称す)の店舗兼住宅を六八〇万円で請負い建築した。

この工事の関係で森が国民金融公庫及び環境衛生公庫から資金を借りた際被告人が保証人になつてやつた。又森が被告法人のために工事を斡旋してくれるというので被告人は森の仕入関係の手形の裏書などしてやり、現に森の斡旋によつて鶴亀ドライブインや五光でんぷんの工事を被告法人が取つたのである。

又昭和四七年森は株式会社もりを設立しホテル紀吉を買収しクラブ経営に乗出し、その資金として宮崎銀行川内支店から五、五〇〇万円を借りた。その際被告人はその債務の保証人になつた。処がクラブ経営が失敗に帰し森は昭和四八年夏行方不明になつてしまつた。

森の負債総額は七、〇〇〇万円に上り、その内五、〇〇〇万円は被告人と鶴亀酒造の執印秀人の二人でかぶらなければならない状態であつた。

被告人は裏書した手形約一、二〇〇万円をかぶり又森の宮崎銀行に対する債務が昭和四八年九月末日頃精算され、約九〇〇万円を被告人と執印秀人の二人でかぶり四五〇万円ずつ支払つた。

その際森の被告法人に対する請負代金未払額二四〇万円を被告法人が回収することができた。

その後

昭和四八年一二月 川内信用金庫に一〇〇万円

昭和四九年四月 羽田某に六〇〇万円

昭和四九年一二月 北薩信用組合に一六〇万円

昭和五〇年二月頃 川内信販の子会社に一〇〇万円

昭和五二年一〇月五日 川内信販に一六〇万円

というように森の債務をかぶり被告法人又は被告人個人の金で支払つた。

一方昭和四八年一〇月森所有名義の宅地五四八m2七六及び店舗兼居宅の所有権を被告人に移し同年一二月右不動産に対して抵当権者を株式会社園田組、債務者を被告人として二、二〇〇万円の抵当権を設定した(昭和五二年一二月二五日作成の森重幸関係質問てん末書四枚目表以下)、(昭和五二年五月二七日作成の園田菊夫関係質問てん末書四枚目裏以下)、(昭和五二年一二月二〇日作成被告人供述調書一一)。

以上述べた如く被告人は株式会社園田組の業績向上のため森の協力を得、他方その債務を保証してやつたが森がクラブ経営に失敗し保証かぶりをしてしまつた。

被告人が森の債務の保証に立つたのは被告人と森との個人的関係からではなく、森の力を借りて株式会社園田組の業績を向上するための措置であつた。換言すればこの保証かぶりは被告法人の業績向上のため払つた犠牲である。もし森が協力してくれなかつたら被告法人の業績はこうまで向上しなかつたし所得もこうも伸びなかつたと云い得るのである。それで保証かぶりの金を被告法人から仮払し、その資金のやり繰りをしたものである。

以上が脱税の動機の第一点である。

(二) 昭和四八年二月頃被告人は園田組の下請をやつている田辺屋森二から「川内市の向田本町で電気店をやつている長谷川三郎の息子さんが今度川内に帰つて来て病院をやる事にしている。その敷地が必要で探しているので一つ協力してください。」と頼まれた。被告人は敷地を探してやつて病院の建築を取ろうと考え、早速長谷川三郎やその息子本人とも会つて病院の敷地探しにかかつた。

昭和四八年四月頃川内市西開聞町に宅地約三一二坪(所有者楠元勲外)という適当な土地がみつかり被告人の責任で買収することになり、地上の建物一二、三軒の賃借人を立退かせるという条件で六、二〇〇万円で売買契約が成立した。その時被告人は立退費用等として内金二、〇〇〇万円を被告法人の金で支払つた。

しかし事前に長谷川との連絡が充分でなかつたため、長谷川の息子(医師)は別の土地仲介業者に依頼して別の土地を買収してしまつたのである。被告人は売主に対する責任上被告人がこの土地を引受けざるを得なくなり、結局昭和五〇年一二月被告人及び被告人妻の名義で三、〇〇〇万円づつ、合計六、〇〇〇万円を川内市農協から借り、一〇〇万円まけさせて六、一〇〇万円で買収し会社名義で登記したのである(昭和五二年五月二七日作成園田菊夫関係質問てん末書五枚目表)、(昭和五二年一二月二〇日作成園田菊夫供述調書一二)。

この土地の買収もこの土地を買収することによつて被告法人に長谷川病院の建築工事を取ろうという意図でなされたもので、云わば会社の業績向上のため払つた一つの犠牲であつた。結局その土地を会社名義に移し会社がその代金を支出したので、その資金繰りのために比較的所得の多かつた年に所得を後年度に追いやつたものである。

以上が脱税の動機の第二点である。

(三) 以上(一)及び(二)に述べた如く、何れも被告人が株式会社園田組の請負工事獲得のため生じた出費であつて被告人個人の利益のためやつたことではない。

又その資金を会社に仮払させたが、

(一)の場合には森所有の土地建物を被告人所有名義とし之に対して株式会社園田組が二、二〇〇万円の抵当権を設定し

(二)の場合は買収した土地約三一二坪を会社所有名義とし

株式会社園田組の被害を食い止める措置を取ると共に会社の資金繰りのために比較的所得の多かつた年の所得を後年度に繰り延べたものであつて勿論被告人個人が脱税した金を着服しようと考えて脱税したものではないのである。

三、(被告人らの反省悔悟)

被告人らは前述の動機に基いて法人所得過少申告を行つたのであるが、昭和五二年二月熊本国税局員によつて未払金のずれがあることを指摘された後直ちに川内税務署長に脱税の真相を打明け、陳謝すると共に速かに修正申告をして穏便に一件落着させることで両者の意見が一致していたのに、

(一) 昭和五二年五月突如熊本国税局による一斉踏み込み調査を受け、

(二) 脱税した本税、重加算税、延滞利息など国税及び地方税合せて六、六〇〇万円余の賦課を受け、

(三) 銀行から融資を受けて昭和五二年一二月やつと六、六〇〇万円余を納付した。

(四) 更に昭和五二年一二月二八日、株式会社園田組及び園田菊夫が法人税法違反事件被告人として起訴され刑事裁判を受ける身となつたものである。

以上のような状況で被告人は脱税のむくいを身をもつて知らされ、脱税したことを深く反省悔悟し今後絶対に脱税しないことを誓つており、被告人の改過遷善の実は充分にあがつている。

又経理担当取締役浜本一則及び経理担当者松下和吉両名も深く反省悔悟しているので、被告法人が再び脱税することは絶対ないと確信するものである。

四、(禁固刑の云渡の影響)

被告人は高等小学校高等科二年を昭和二一年三月卒業しすぐに大工見習となり四年後の昭和二五年独立して弟子を取り手間受大工仕事をはじめ昭和三三年建設業登録を受けて園田組の名称で建設業を始め、昭和四三年一一月株式会社園田組を設立し代表取締役となつたが実務的には個人経営時代と同じく最高責任者として会社を統括管理し部下に指示、命令を出す一方会社を代表して国、県、市その他他業者、銀行等との接渉に当り、入札話合も自ら行つている等ワンマン的活動を行つており余人を以ては代え難い職責を果しているのである(昭和五二年一二月二〇日作成被告人供述調書二)、(昭和五二年一二月一三日作成浜本一則供述調書三)。

被告人は自ら勤勉努力の範を示すと共に顧客に対するサービスをモツトーとしてその信用を博して、川内地区Aクラスの建設業者になることができたのである。

建設業法第八条によれば、一年以上の懲役又は禁固に処せられた者は建設業の許可を受けることができないことになつている。被告人は執行猶予付の禁固六月ではあるが、世間では悪質な脱税を行つた如く思われ、本事件まで被告人を信頼してくれた地方建設局、県、市その他の官公庁に対して顔向けができなくなり、被告人は被告法人の代表取締役を辞任せざるを得ない状況に追い込まれている。

既述のような働きをしている被告人が被告会社の代表取締役を辞任すれば折角Aクラスに進出した株式会社園田組の転落は必至である。

被告人は脱税の非を深く反省し今後絶対にしないことを誓い、体刑でなく罰金刑ですませて頂きたいと懇願している。

いうまでもなく刑罰の本質目的は犯人を改過遷善せしめるにあるのであつて、必要以上の不利益を犯人に与えることは刑罰の本質目的に反するものである、と確信するものである。

五、(結語)

(一) 被告人の脱税の手口は初歩的で手の込んだ計画的な悪質のものではない。

(二) 脱税の動機については情状酌量の余地が充分ある。

(三) 被告人は勿論経理事務担当者らは脱税について深く反省悔悟し、今後再び脱税しないことを誓つており被告人も被告法人も今後脱税することはないと確信するものである。

(四) 改過遷善の実の挙がつている被告人に対して体刑を選択したことは、被告人及び被告法人に対して必要以上の不利益を与えるものである。

以上の諸点を斟酌せられ原判決を破棄の上、被告法人に対する罰金刑を軽減し被告人に対し罰金刑を課せられんことを求めるものである。

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